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東京高等裁判所 昭和28年(う)1865号 判決 1954年3月03日

控訴人 被告人 松原慶次郎こと黄斗慶

弁護人 諏訪栄次郎

検察官 大久保重太郎

主文

原判決中被告人に関する部分を破棄する。

被告人を懲役八月に処する。

理由

本件控訴の趣意は弁護人諏訪栄次郎提出の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、ここにこれを引用しこれに対し次のように判断する。

第一点について、

原判決挙示の証拠によれば、パチンコ遊技は、当該遊技場において所定の料金を支払つて受け取つた玉を使用して遊技をした上、取得した玉又はその使用残りの玉を賞品引換所に差し出し、所定の割合で各種の賞品と引き換えるべきものであるのに、被告人は、先に東京都内において買い求めたパチンコ玉四千個を持つて、判示春日部町に来り、判示鶴見利一方では料金五十円を支払つて玉二十五個を受け取り、被告人が所持していた玉の内五百個をズボンに入れおき、右二十五個の玉と被告人の所持していた右五百個の玉のうち若干とを合せ使用してパチンコ遊技をなし、その結果取得した玉百二十個を以てピース一個及光五個を賞品として受け取り、又判示国山永男方でも同様料金五十円を支払つて玉二十五個を受け取り、先に所持していた前記五百個の玉の残りと合せて遊技をなし、その結果取得した玉を煙草若干と取りかえて一旦そこを出た後更に所持していた玉のうち千個をポケツトに入れて同店に入り暫くパチンコ遊技をした上右千個の玉と遊技により取得した玉とを加えて合計千五百六十五個の玉を以て光五十二個ピース二十一個を賞品として受け取つたものであつて、即ち被告人は遊技場において料金を支払つて受け取つた所定の玉以外の玉を正当に受け取つた玉に加えて遊技をし、その結果取得した玉、又は元々被告人が所持していたもので、正当に料金を支払つて受け取つたものでない玉を、あたかも正当に料金を払つて受け取つた玉又はその玉により正当に遊技をして得た玉であるかのように装つて景品引換所に差し出し、前記遊技場営業者又はその店員等を欺罔して賞品名下に判示煙草を受け取つたことが認められるのであるから、被告人の所為は刑法第二百四十六条第一項にいわゆる詐欺罪を構成するものというべきであつて、被告人が引換を受けた玉の中には被告人が正当に料金を支払つて受け取つた玉又はその玉により遊技の結果正当に取得した玉が混入していたとしても、そのいずれの玉が正当に取得した玉であるかを具体的に判別しえない本件のような場合においては、その行為は包括して違法に財物を騙取した罪にあたるものと認めるの外はない。

原判決の判示するところは結局右に説示したところと同趣旨であつて、右事実は挙示の証拠によつて認めうることは叙上のとおりであるから原判決には所論のような審理不尽の違法があるとはいえない。論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 谷中董 判事 荒川省三 判事 中浜辰男)

控訴趣意

第一点原判決は、罪とならない事実を断罪した違法がある。

原判決は、被告人が原判示各パチンコ遊技場にてパチンコ玉二十五個を買入れ、これと持参したパチンコ玉を混入して、パチンコ機械に打込み遊技をなし、恰も全部買入れたパチンコ玉を使用したような風をして店員等を欺き、………パチンコ玉と交換名義で煙草を騙取した旨の事実認定をしている。

しかし、パチンコ遊技は、玉を打込んで当らなければ、打込んだ玉は全部経営者の取得となるのであつて、被告人が欺罔手段を取つたとしても、詐欺未遂はともかく既遂にはならない。のみならずこの場合には被告人の方で持参した玉だけ損することになるのである。次に被告人は、正当に買受けた玉二十五個を持つているのであるから、右正当の玉によつて当つたものか不正の玉によつて当つたものか判然していない。正当の玉のみによつて当つたものとすれば、本件は犯罪性を認められないと思う。よつて正当の玉により当つたものか不正の玉により当つたものか原審は判然させるべきであつた。それなのにこれをしていないから審理不尽の違法もあると思料する。

(その他の控訴趣意は省略する)

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